小さな頃から一緒だったは、あの日、自分が置いていった日から、再会するまでの時間の間に、随分と女の魅力を身につけていた。笑えば華が咲いたように周りが華やぐ。立ち振る舞いも、戦ばかりだったあの頃と比べて、女性らしくなっていた。を見つけた瞬間の俺は、多分相当驚いたらしく、しばらくは動けなかった。
まわりは男ばかり、そんな環境で育ったせいか、は強かった。実力的にも、精神的にも。だから滅多なことがない限り、は泣かない。もちろん、先生がいなくなったときは、泣いていた。だがそれも、周りには涙を見せないように、夜中一人で、枕に顔をうずめて泣いていた。そして俺たちが、俺が、を置いていったとき。あの時もは泣いた。
「…どーした」
ある日の夜中、布団がすれる音で目が覚めた。うっすらと目を開ければ、隣のが体を起こしていた。部屋の中はまだ暗いから、あまり見えない表情ではあったが、どうも泣きそうな表情をしているのが分かった。見えたんじゃない、分かった。
「ううん、何でもない」
嘘だということはすぐに見破れる。その証拠に、の声は震えている。
「あ?んな顔してねーだろ」
頭を掻きながら体を起こす。できるだけ優しく、もう一度、どーしたと問えば、は俯く。
「」
名前を呼べば、は俯いていた顔を上げる。手招きして腕を広げて、の反応を待つ。いつもだったらここで、バカじゃないの、と言って無視するか、または鳩尾に一発…と厳しい反応をくらうため、今回もそうかと思っていれば、はそのまま抱きついてきた。
「うおっ…」
嬉しいが、予想外の反応に俺は驚いて声を上げた。受け止めて、背中に腕を回せば、しがみつくの力は、少しだけ強くなった。。
「…夢、見ちゃって、さ」
「…ああ」
「みんな、いなくなっちゃうんだ」
にとって、あの日置き去りにされたことは、相当深く、記憶に刻み込まれているらしい。声も体も、小刻みに震えている。それでもは泣かない。
「…もう、置いて…いかないで」
あの日、を置いていったのは、を護る自信が俺になかったからだ。次々と倒れていく仲間を見て、もし次に倒れるのがだったら、と思えば、を連れて行くことがとても恐ろしくなった。要するに俺のエゴだ。戦なんてそんなもんだと分かっていたはずだった。それでも俺はを死なせたくなかった。
「置いてなんて行かねーよ」
背中に回した腕の力を強くする。もしかしたら痛いぐらいかもしれねーが、今は力の加減を気にしていられない。
「今度は俺がを護ってやるから、心配すんじゃねーよ」
はもう手放したりしない。俺がこの手で護る。そう決めたのは、が再び俺の元に戻ってきてくれた日だ。
「護られるだけなんて、嫌。私だって銀を護る」
ああ、これがあの小さかったか、言われた言葉に、の成長を感じられて、何かよくわからねーが、少しだけ嬉しくなった。
「…そーかい」
の震えは収まった。
「このままにしといてやるから、もう一回眠れよ、」
「…じゃあ、お言葉に甘えて…」
やけに素直なの髪を撫で、おやすみ、と言えば、は心地良さそうに眠りについた。俺たちはこんな風に、支えあって生きていけば良いんだ、と、気づかされた日のことだった。
マイラヴァー
番外編003の銀時視点
ギャグ要素が入っていないなんて…!