――――世界は加速している
アイツを見失って立ち止まる、俺を取り残して――――
梅雨の時期でもないこの季節に降る長雨。湿気が鬱陶しい。特に天然パーマという悩みをもつ俺にとってはなおさらだ。大好きな結野アナも今朝も笑顔で明日は雨、だと伝えていた。
「オイオイ、そろそろ晴れてくれてもいいんじゃねーの?いつまで機嫌損ねてんだよお天道様はよォ…。なんだよ、実家にでも帰ってんのか?」
呟いたちょっとした感想は、外で今も降り続く雨の音に消えていった。
そういや今日は神楽も新八もいねェんだっけ。定春も見あたらねェし…。
はぁ…、と零したため息も、ただ自分が独りだということを自覚させるだけだった。
いつだったか、アイツが言ってた。
――――雨が嫌いなんて勿体無いよ!だって雨降った後って、空が綺麗に見えるんだよ!
「…空も何も、雨が止まねーんだっつーの」
万事屋の窓から空を見上げても、雨はまだ降り続いている。
「あー…、じっとしてらんねェ…。いっちょ出かけてみっか…」
もう少しで破れてしまいそうな傘を持って外に出る。
こんなに雨が続くと、あの日を思い出す。過去に参加した、攘夷戦争のある日を。
彼女を失ったあの日、あの日も雨だった。
「…雨のバカヤロー、嫌なこと思い出しちまったじゃねーか」
嫌なことは忘れるに限る。あの日からの俺の利口な生き方。
そんなこと言いながら、あいつの写った写真を捨てきれないのは、利口な生き方ができてない証拠だ。
「…だから嫌いなんだよ雨は」
忘れなきゃいけない、そんなものまで思い出させる。
「…そういや、あんとき、あいつなんか言ってたな。」
―――――雨の、
そうだ、俺が昔同じ事を言ったとき、あいつなんか言ってたんだ。
―――――雨の後ってさ…、
「雨の後、…なんだっけ」
悩みながら歩いていると、あることに気づいた。
目の前の女、傘…さしてねェ…。
「なんだ、雨止んだ…」
傘を閉じながら、目線を上げる。
「雨の後ってさ、何かいいこと起こりそうじゃない?」
目の前には、亡くしたと思っていた、アイツ。
「何間抜け面してんのよ、銀時」
「…お前…っ、!」
俺が名前を呼ぶやいなや、アイツは俺の胸に飛び込んできた。
「ただいま」
今は言葉なんかいらねェ。
見つめあうより、こいつを確かめたい。
重ねた唇は、抱きしめた体は、俺の雨で冷えた体を温めてくれた。
―――――世界は加速している
俺はやっと、その世界に追いつきそうだ―――――
Speed of flow
企画サイト「バクチ・ダンサーズ」様へ提出
いろいろとご迷惑おかけ致しました;
参加させていただきありがとうございました。
2010/04/30 朝霧千夏