ばかじゃないの、そう言って笑うお前が好きだった。クラスでばかをやる俺を、呆れながらも暖かい目で、笑うお前が好きだった。
「…なんで泣いてんだよ」
放課後、一度下校してから忘れ物に気づいた俺は教室に戻った。夕日が差す静かな教室。もう誰もいないだろうと思って入ったその部屋には、一人席について静かに涙を流すあいつがいた。
「…坂田、」
俯いていた顔を上げ、驚いた表情を見せる。すぐに頬の涙を拭うと、笑顔を浮かべる。
「…どうしたの?」
まるで泣いていたのが嘘だったかのようにいつものように振舞う。
「あ?…忘れ物だ忘れ物、明日提出の」
「…そんなもの忘れるなんて…ばかじゃないの?」
俺はいつものように言ってのけたあいつに近づく。
「ばかはお前だろーが。何もなかったふりしてんじゃねーよ」
綺麗にセットされたさらさらのストレートの髪をぐしゃぐしゃにする。
「ちょっ…何」
「無理して笑ってんじゃねェ」
そう言えば、また顔を俯かせて黙り込む。
「」
先を促せば、はぽつりぽつりと話しだした。
「…土方にね、告白…したの」
「…おう」
「ふられちゃったけど」
がいけすかねェあいつを好きなんだ、という噂はもともと知っていた。俺はが好きだったから、どうしても信じたくなかったが、こうやって本人の口から聞くと、心が重くてたまらない。ふられたと聞いて少し嬉しく思ってしまった。
「好きな子がね…、いるんだって」
は笑った。
「…ばかだよね、私。好きな子いるってこと、知ってたのに」
「ああ、ばかだな」
一瞬だけ顔を歪ませて、またすぐに笑う。
「だからそれがばかだって言ってんだよ」
「…え?」
「悲しいくせに笑ってんじゃねーよ。泣きたいときは泣けって」
「泣いて…いいのかな?」
「いいって言ってんだろーが」
「…ん」
頭に手を載せると、は泣き出した。
「私、坂田を好きになればよかった、」
「…今からでも遅くねェよ」
lost my love