「……恭弥…」



「…言われなくても分かってるさ…」







 僕は群れるのが嫌いだ。草食動物が群れているのを見ると咬み殺したくなる。そんな僕は今、何故群れをつくって任務などやっているのだろう。それはやはり、「沢田綱吉」とあの「赤ん坊」に、おもしろいぞといわれたからだろう。まぁ、沢田綱吉…彼は気はすすんでいなかったみたいだけど…。彼は今、僕の目の前にいる女に惚れているみたいだからね。
















 それが彼女の名だった。彼女のほとんどは、普通の女と同じような人柄だ。だけど違っているのは、彼女が殺し屋だということ。







 この任務は、一つでも小さなミスがあれば失敗――死につながる。そういうスリルがあるからこそ、僕はこんな群れをつくっている。じゃなければ、僕はこの女と群れたりなんかしない。そうだ、僕は群れが嫌いなんだ。







 今日の任務は、ボンゴレとしても脅威になると思われる、敵対しているファミリー同士の会合にまぎれこみ、幹部を始末することだった。綱吉は何故か、私を行かせたがっていなかった。こんな任務、私にもってこいな仕事なのにね。それにしても珍しい。綱吉が敵とはいえ、誰かを始末しろなんてこと言うなんて。綱吉も少しはマフィアの自覚が出てきたのかしら。







「恭弥…、やつらよ」







 恭弥からの返事は無い。敵の幹部はこちらの存在には全く気づいていない。好都合ね。







「全員いるわよ恭弥…どうする?」



「…いいよ。殺しに行こうか」



「ふふ…そうこなくっちゃ」







 幹部の他にも、たくさんの雑魚どもがいた。だけど僕達はそんなやつらには興味はない。目もやらずにトンファーで咬み殺す。それはも同じだった。もちろん武器は違うけど。幹部の奴等は少しは楽しませてくれるんだろうか。こんなもので終わるなら、二丁の拳銃を持った一人で大丈夫だっただろう。


 一人、二人、三人…四人…。幹部は全部で12人。どれも歯ごたえのないやつらね。恭弥は今何人殺ったのかしら。








「ワオ!、結構はやかったね」



「そうね。恭弥…何人殺った?」



「幹部のやつ等かい?数えてないね」



「…でしょうね」







 はそう言って静かに微笑んだ。その笑顔は何なんだい?君は時々分からなくなる。どう接していいのか分からないんだよ。彼女はそんなことはつゆ知らず、死体の顔と幹部の写真を見て人数確認をしている。返り血をあびた彼女の真っ赤なブラウスからのぞく白い肌。それさえも美しいと思う僕はどうかしてしまったのだろうか。







「…恭弥…」



「何だい」



「今すぐこの場から離れて…!失敗よ」







 彼女の言っている意味が理解できない。「一人足りない」その言葉を口に出すの声は少し…、ほんの少しだけ震えていた。








「恭弥…何つったってるの!はやくこっちに!!逃げるの!」



「逃げる?」



「そうよ。逃げなきゃ死ぬわよ」



「僕は逃げるのはごめんだよ」



「恭弥…我侭言わないで」



だけでも――」







 逃げなよ、そう続けた僕の声は、突然「恭弥」と叫んだの声にかき消された。その後何が起こったのか、僕には見えなかった。だけど、その場に響いた2つの銃声に、幹部の残り一人とは相討ったのだと気づかされた。が撃たれたのは動こうとしなかった僕をかばうため。そこに転がっているの死体は心臓を一発…即死だった。頬をつめたいものがつたう。涙…?そんなわけないだろう。雨だ。さっきまで晴れていた空から、雨が降っていた。をもう一度見る。胸元から少しはみだした小さな箱を僕は見つけた。その箱はの血で少しぬれていた。







「甘いよ…







 僕は耳元でささやかれた、の最期の言葉を思い出した。














愛してる




(ホワイトデーには花束をおくろうか)