…どうしよう。
それは昨日のことだった。最近つるんでいる仲間の一人である女友達、来島また子との会話で、誕生日の話題になった。お互いの誕生日の話、そして仲間の誕生日の話。まさかまさか、アイツの誕生日…高杉の誕生日が今日だなんて…、知らなかったんだ!それをまた子に伝えると制服の襟を掴まれて激しく揺らされた。
「晋助様の誕生日を知らないとは何事っスか!」
「いだだだだっ、首!首しまってますまた子さん!!」
「黙れバカ!私なんて去年の8月11日から準備してたんスよ!!?」
「それ早すぎるから!ていうかそれだけ前から準備してるならもうちょっと早く私にも教えてよ!」
「知らないのが悪いんスよ!」
とにかく準備するように、と念を押されて(あれはほとんど脅しだったんじゃないだろうか)結局私は…、準備することにはしたんです。そして今日、学校でさっさと渡してしまおうと思っていた私は、高杉の周囲に群がる女子の大群を見て…なんというか、渡す気が失せてしまったのでした。
「…はァ…今年もっスか」
「…また子ォ…、何アレ?」
手を頭に当ててため息をつくまた子はすごく様になっている。というかこの子高杉崇拝をやめれば絶対モテる。大事なことだから二回言うけど、絶対モテる。この子ほど制服似合う子いないんじゃないだろうか。
「何って…晋助様に群がる女の大群っスよ」
「それは見れば分かるよ」
今までそんなに気にしてなかったけど、高杉って意外と人気なんだろうか。普段なら不良的な存在で周りから恐れられているはずなんだけど…。この大群を見る限り…、人気だよなァ…。
「じゃあ、アンタも頑張るんスよ!私は今からアイツら蹴散らして渡しに行ってくるっスから!」
「…は?」
蹴散らす、ってまた子さん。と止めようとしたけど既に時遅し。また子はすごい勢いで大群に突撃し、くもの子を散らすようにして大群に入っていった。
「…私のも持って行ってくれたらいいのに」
そして放課後はあっという間にやってきた。用意したものは生もの、というか要するにケーキだったから渡すなら今日中、渡せないならもう諦める、と決めていた。まあ諦めるならどっかの甘党国語教師に押し付けて荷物を減らしてから帰ろうと思っていたから、私が困ることは別にないと思っていたのだけど。
「オイ」
「…高杉?」
誰も居なくなった教室に飛び込んできたのは高杉だった。それも制服や髪は乱れていた。
「何やってんの?」
「匿え!」
「それ人にものを頼む態度じゃないよね」
大体何から匿えって言ってるの?、と尋ねようとしたとき、廊下から足音と女の子の声が多数聞こえてきた。なるほど、と理解するのもつかの間、教室の扉を勢いよく女子が開けた。
「えっと…、さん?」
「どうしたの?」
「高杉くん見なかった?」
「見てないけど」
「あ、そう?ありがとう!」
少しの問答の後、彼女達はまた走り去った。
「行ったよ」
なんとかして隠れていたらしい高杉は出てきた後適当な席に座って机に突っ伏した。
「あれアンタにプレゼント渡したくて追いかけてるんじゃないの?」
「そうだろうなァ」
「受け取ればいいじゃん」
「…いらねェ」
そんなにはっきりいらないって言わなくてもいいのに。
「追いかけられるの嫌なら帰ればいいじゃん」
「あァ?帰れるかよバカ」
「バカって何よバカって」
「まだ貰ってねェ」
「はァ…?この期に及んで何か欲しいわけ?」
そう聞くと、高杉は体を起こしてまっすぐこっちを向いた。
「お前から」
「…?」
「お前から貰ってねーから帰れねェ」
何その理屈、と言いながら私は笑ってしまった。
「大体お前から貰ってやるために学校来てやったのによォ、全然こっち来ねェじゃねーか」
「だって人ごみ嫌いだし」
「我慢しろ」
「嫌だ」
「ガキかてめーは」
よこせ、と差し出す手にケーキが入った箱を渡す。早速箱を開ければ、高杉は少しだけ笑った。
「どう?」
「お前料理できたんだな」
「そんな感想はいらない」
「うめェよ」
「そりゃ良かった」
高杉ってケーキ似合わないよね、そう言ったら殴られた。まあでもさっき、笑ってくれたから今日のところは仕返ししないでおいてあげよう。
「高杉」
「あ?」
「誕生日おめでとう」
「おー」
FOR YOU
高杉誕生日おめでとう!!
また子も大好きなもので友情出演←
いやはやおめでたいものです。
たとえサザエさん方式であったとしても!
2010.08.10 love forever.