「げんろー?」
聞き慣れない言葉を繰り返し首を傾げると目の前の男はお偉いさんだ、という短い答えを寄越した。
そういえばそんな感じの言葉は聞いたことがあるような、ないような。興味がないことを隠しもせず、ふーん、とだけ返すと、彼はそれ以上は何も言わず、この部屋で待っていろと指示を出した者の帰りを待っていた。ああ、暇だ。待ち時間がこんなに暇だと分かっていたなら、行先がげんろーだろうが買い出しだろうが何でもいいから、着いていったのに。そんなことを考えながら、私は机に突っ伏し、暇つぶしのためのくだらないお喋りをはじめた。
「云業さんってさあ、何で髭生やしてるの」
「……」
「おしゃれのつもりなの」
「……」
「三つ編み可愛いよね」
「……」
「あれ、それ三つ編みじゃないんだっけ」
「……」
私が今所属しているのは宇宙海賊春雨の第七師団。初めてここにやって来た時、警戒心の塊だった私の面倒を懲りずにみてくれたのがこの云業という男だった。面倒をみると言っても、この通りの寡黙さゆえ、ほとんど会話はない。最初のころはもう少し口数が多かったような気がする、とか、なんだか面倒臭がられているだけな気がする、とか確信の持てないことには触れないでおく。返事がないのは寡黙だからです、あと私の質問に中身がないから。
「阿伏兎先輩まだ帰ってこないのかなあ」
「さあな」
「さっきの、元老だっけ? 何の用なの?」
「それを聞きに行ったのだ、用件はわからんな」
本当に知りたいことだとか、師団に関わることであれば、云業さんは必ず返事をくれる。なんとなく察しがついていそうな様子を見て尋ねたのだが、「わからない」と濁されるのであれば、阿伏兎先輩辺りに口止めされているのかもしれない。阿伏兎先輩が口止めするということは、私に不都合な内容か、はたまた団長に知れるとまずいことか。私の経験上、おそらく後者だ。
「団長、呼ばれてないんだね」
「そうだな」
我らが団長は名を神威という。確かめたことはないけれど年頃は私とそう変わらないと思う。少年と形容するには足りず、青年というにはまだ幼い、そんな印象を持つ男だ。私を除く第七師団員は、その大半が夜兎と呼ばれる絶滅寸前の戦闘部族の血をひいている。神威も例に漏れずその一員であり、彼の戦う姿はまさに夜兎。私もかなりの星々を渡ってきたが、今まで出会った者の中で、この男以上に戦闘狂という言葉が似合う者はいない。
そんな強さはピカイチ!な我らが団長だが、組織を運営する上では時に厄介なトラブルメーカーとなることが多々。阿伏兎先輩はその尻拭いをすることが多い。いろんな経緯を経て、そもそものトラブルを避けるために厄介事になりそうな事は団長の耳に入れるべからず、そんなルールが出来たのは最近のことだった。今日の待機指示は阿伏兎先輩からのものだが、同じく留守番組で艦船内にいるはずの団長はこの部屋にいない。つまりはそういうことだ。
「なーんか久しぶりに楽しいことになりそうな予感」
「、最近団長に似てきたな」
「え、それ褒められた気がしない」
「褒めていないからな」
「よーし暇だし云業さんぶっとばしまーす」
The seventh division
2015.05.03
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