私はとにかく暇だった。直接誰かに忠告されたわけではないが、団長に見つかってはならないという大人の事情とやらを察した私は一生懸命この狭苦しい部屋でじっとしていた。云業さんとお喋りをしようと話しかけてみたところで返ってくる言葉はほとんどない。とりあえずポケットの中に偶然入っていたトランプを引っ張りだしたところで云業さんは遊んではくれないし、1人でできる遊びなんてたかが知れている。待てと言われたから大人しく待ってはいるものの、私はそう気が長くない。暇で暇で仕方なかった、そんな時に云業さんの暴言だった。私がそれを理由にして暴れ出すのも仕方ないことだったのではなかろうか。
「なかろうか、じゃねェ! 察したなら大人しくしとけこのすっとこどっこい!」
「私の心を勝手によまないでもらえますー?」
「声に出ていたぞ」
「まじか」
誰某に似てきた、という言葉は暴言になるかどうかは人に依る。云業さんが言ったさっきの「団長に似てきた」は心に刺さるものがあった。あんな戦闘狂に似てきたとか本当にないわ、あれはお年頃の女の子が一番目指しちゃいけないやつ。
そんなわけで云業さんに殴りかかった私だったが運良く(運悪くともいえる)帰ってきた阿伏兎先輩から脳天目掛けてげんこつ一発くらいしばらく暗転。一応自分が夜兎だということを自覚した上で殴ってくるわけだから、鬼畜にも程がある。「私じゃなければ死んでますよ」と抗議したことは数知れず、そのたびに「お前相手なら平気だろうが」と論破されている。なるほど。
「なるほど、じゃねーわ、阿伏兎先輩当たりきついもっと優しくして」
「知らねェよ。遊び相手がいねえ可哀想なお前の相手してやってんだ、十分優しいだろうが」
「え? これ優しいの? 優しさなの? 脳天に一発食らってんだけど」
「お望みならもう一回優しさを与えてやろうか?」
「さて冗談はさておき、先輩そろそろ真面目にお仕事しようか」
「お前が言うんじゃねえよ」
やはり阿伏兎先輩がいるとさすがに会話が弾むというかなんというか。私は特別お喋りというわけではないけれど、一日の会話はそのほとんどが阿伏兎先輩とのものだ。あれ? これもしかして私友達少ない……いやいやいやいやそんなまさか。私は確かに夜兎という種族の生まれではないけれど、それなりに皆とうまくやってるつもりだものそんなはずないもの。そう! 師団の皆が口数が恐ろしく少ないだけ! あ、もしかしてむしろ阿伏兎先輩の方こそ話し相手私しかいないんじゃない!?
「で? お取込み中悪いんだが、お前話聞いてる?」
「聞いてる聞いてる、阿伏兎先輩ボッチ説でしょ?」
「何の話だぶっ殺すぞ」
「い゛た゛い゛」
余計なことを言うんじゃなかった、と後悔するも遅く、本日2回目の脳天アタック。私が頭の中でスクープ! 阿伏兎ボッチ説!を展開している間に、(実はずっと横に居た)云業さんはちゃっかり連絡事項を聞いていたようで、もう用は無いとばかりに部屋を後にした。云業さんてば私のこと置いてった!さっきまで共に暇な時間と戦ってきた仲間だったのに!
「吉原に行くぞ」
「はあ、行ってらっしゃい」
「お前も行くんだよ」
「私どちらかというと格好良いお兄さんがいいもん」
「お前の好みは聞いてねえ、仕事だっつってんだろうが話聞け馬鹿」
The seventh division
2015.05.15
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