の朝は早い。朝日が昇ると同時に夢から醒め、目をぱっちり開くと、昨晩床に就いた時と比べて随分と軽くなった毛布を蹴上げて飛び起きる。それから軽く足を曲げ伸ばし、冷たい水で顔を洗うと完全覚醒。準備万端、いざ。
自室のドアを蹴破って外に飛び出す。またあのおっさんに怒られるなあと、のんきに考えるものの、彼女に反省の色はない。また云業に直してもらおう、そうしよう。狭くて暗くてなんだかかび臭い、そんな通路に出ると、彼女は目的の場所へ駆け出した。彼女の駆ける音以外に物音はなく、人影も見えない。
起床直後の攻撃は彼女の日課であり、。目標はこの船を取り仕切る、宇宙海賊春雨第七師団団長神威。とある出来事がきっかけでこの男に拾われ、それからしばらくは呈示された「この船を出たければ団長を倒せ」という解放条件を目的に、その首を狙っていた。同じぐらいの年頃で、常にへらへら笑っている男が、まさかこれほどまで強いとも思わずに奇襲を仕掛けては瀕死状態にされる。それを何度繰り返しただろうか。戦闘に加えてその他さまざまな要因はあったが、今では彼女も立派な戦闘員として、第七師団の仲間入りを果たしていた。
一方その頃、彼は夢を見ていた。自分の首を狙う女がすぐそこまで迫っているにも関わらず。周りには大量の敵、そこを抜けなければここで一番の強者には指一本触れられない。自分の攻撃手段の一つである大きな番傘は、なぜか今手元にはなかった。あれがなければ自身の天敵である太陽光も防ぐことはできない。だが彼は気にしない、夢か現か、傘があろうがなかろうが、強い者と闘うこと、それさえ叶うのならば何でも良い。さあ、いこう。
一歩踏み込めば雑魚どもは俺を見失う。あくびが出るほどあっけなくその場に倒れていく者たちを足場にして戦場を駆ける。足もとはところどころ雑草の生えた土であるのに、なぜかコンクリートを蹴ったような音を立てて走ることにほんの一瞬首を傾げてみたものの、すぐに気にならなくなった。目標はもう目の前だ。踏み込んだ一歩で、向かってくる強敵に蹴りを食らわせる。
「で?寝ぼけた団長に顔面蹴っ飛ばされて壁に頭から突っ込んだってわけか?」
「そうそう」
「団長覚悟ォォォ!」と部屋に突っ込んだところまでは良かった。団長はまだ夢の世界に旅立ったまま、ベッドの上に転がっていた。それがまずかったのだ。彼が見る夢など、大抵が強者との戦闘に決まっている。それに彼の寝相の悪さが加われば最強最悪の寝ぼけ野郎の完成である。夢うつつのまま、部屋に侵入してきたを、隣の部屋を隔てる壁に向かって思い切り蹴飛ばしたのである。
「そう、だからこの壁を壊したのも悪気なんてないんだよ、阿伏兎パイセン」
「お前は反省って言葉を知らねェのかこのすっとこどっこい」
「誰がすっとこどっこいだはげじじい」
「誰がハゲだクソガキ」
突っ込んだ壁から見えたのは団長と同じ夜兎の一人阿伏兎が仁王立ちしてこちらを睨んでいる様子だった。
「とにかくここから出たいんだけど」
「しばらくそこで頭冷やしてろ、毎朝毎朝いろんなとこぶっ壊しやがって」
「早く引き出さないと困るの阿伏兎だからね、知らないからね」
タイムリミットは迫っている、突っ込んだ壁の先で阿伏兎パイセンとのんびりお話している場合ではないのだ。私はこの壁から早く抜け出さねば危ないし、阿伏兎パイセンはこの壁から早く私を引き抜かなければ部屋が
「何してんの?」
「神ッ……で、出たァァァ!!阿伏兎パイセン早く!早く助けて!」
「馬鹿野郎暴れんなさっさと出てこいィィ!!」
毎朝が出す被害に比べ、神威が出すそれは数倍も上回る。今朝の被害は壁一枚、阿伏兎の一室、の部屋の扉の船内損傷、それから恒例の瀕死状態。第七師団の朝は毎朝騒がしい。
始末書案件
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