あの日のこと、あなたは覚えていますか―――?
雨降りの、あの日。
私は小さい頃からマフィアだった。まだ幼きあの頃の幸せ…、崩れるはずがないと信じていた頃。『絶対』などありはしない。どんなことでも、いつでも、きっかけさえあれば、脆く崩れ去ることを教えられた。父と母が死んだ。何も分からなかった。理解できなかった。否、理解などしたくなかったのだ。まだ信じていたかった。あの暖かさ、温もりは今も傍にあること。目を閉じて再び世界を見れば、怖い夢から醒めることができるのだと。私は、独りなんかではないということ。
でも違った。再び目を開けても、逸らす事の出来ない世界が広がっていた。ああ、これは現実なんだと思ったあの時。そらしてもそらしても、その小さな瞳に映ったのは赤色。ただ一色だった。ファミリーは全滅。私は、心の底から思った。こんなに世界は広いのに、私はこの世界で独りきり。独りぼっちだ。『絶対』なんてないのだと。
泣くことは無かった。生きるのに必死で、それどころじゃなかった。生きるためには何でもした。喧嘩に盗み、殺しまで覚えた。私は赤一色だった。服は返り血を浴び、手足は泥だらけ。そんな日々が何年も続いたとき、突然あなたはやってきた。
あれは雨の日だった。その日も殺しをやって、血だらけになっていた。こんな時降る雨は好きだ。何もかも洗い流してくれるから。
「君、どこの子?」
「…知らない」
「ファミリーの子?」
「…多分そう」
「どこの…?」
「さあ…?もう大分前に全滅したの。私の両親もみんなも…、全部みーんな死んじゃった」
今思えば、あなたに話したのは、きっと、あなたに昔感じたぬくもりを見つけたからだと思う。あなたは1ファミリーのボスで、部下を説得して私の面倒をみてくれた。これからも、ずっと傍に居られるのだと、「ない」と思った『絶対』を、また信じてしまったんだ…。
「ねぇ、本当に大丈夫なの?」
「うん。だから、いい子にして待っててね」
「ちゃんと帰ってくる?」
「当然」
あなたは私の頭をなでていった。
「絶対帰ってくるよ」
私は
「行ってらっしゃい」
と手を振って送り出した。
絶対なんてありえないのに
次の日の朝、また私は赤の世界に引きずり込まれた